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変わらない私と変われない私。「美意識」って必要ですか?

変わらない私と変われない私。「美意識」って必要ですか?
美意識が高い女友達と一緒にいると、「自分も変わらなきゃ」って思うけど……。

彼女たちと会う前にこっそり準備をする私

女性として生きていくからには、ある程度身なりには気を付けたいとは思っている。

化粧もするし、服もTPOに合わせて、しわくちゃになっていないかきちんと確認して着る。

流行りの香水やバッグのブランドもなんとなくなら知っているし、お気に入りのアクセサリーだっていくつも持っている。

けれど、そんな程度の美意識では足りないことが幾度となくある。

私は、大学時代から何度も何度も何度も、友人との意識の差に悩まされている。

先に書いておくが、悩みの完全な解決策はまだ考えついていない。

大学で出逢った女友達。

言語選択のクラスがたまたま一緒だったことが始まりの私たちは、年齢と大学以外は共通点の無い3人だった。

趣味も違えば実家の場所も違う。生きてきた環境も、この場所で入るサークルやバイトも、まるで違うものを選び取っていたが、同じ空間で学ぶ週2回の90分は、私たちの仲を深めていった。

そうして、社会人になった今でも定期的に3人で集まる。

定期的にとはいっても、就職でそれぞれ離れた県に住んでいるので、3、4か月に1回程度の長期ごとに。

そして毎度、私はその日のために準備をする。

まずは洋服。

このトップスは前々回の秋に会った時に着てしまったから、先週買ったこっちの白ワンピースにしよう。

バッグも、いつもの通勤バッグから、お気に入りのイルビゾンテのハンドバッグに荷物を入れ替える。

前々日くらいには予約していた美容院に行って、生え際の色の違いを馴染ませる。よし。あとは当日、しっかりと化粧をして、この間教えてもらった香水をつけて……。

どうしてもいつも、無理やり頑張ってしまう自分がいる。

彼女たち2人は、美意識がかなり高い。

美への知識量で、その日の楽しさが決まってしまう事実

美容系ユーチューバーや人気のインスタグラマーの情報は欠かさず見ていて、化粧品へのこだわりが半端ではない。

ここのアイシャドウが良かったとか、この美容液はあのタレントがおすすめしていたとか。

そんな美容トークも最初はありがたく聞けるが、2人にとってそんな情報は当たり前に知っていること。話はどんどん進み、知らない単語が飛び交う事態になるのだ。

服装だって、「それ可愛い!」の後には必ず「どこのやつ?」と聞かれる。

けれど、私はそこで堂々と名乗れるようなブランドでは買い物をしていない。

一応身なりには気を付けているが、古着で安く手に入れたり、姉のおさがりやセール品を組み合わせていることばっかりだ。

新しい服に必ず気付いてくれるのは嬉しいけれど、胸を張って自慢できるものではない。

逆に質問返しをすれば、彼女の服はとあるインスタグラマーが最近立ち上げたブランドの予約商品だったりするものだから、またそこで2人の話は盛り上がる。

そして、聞かれる。

「このインスタグラマー、知ってる?」

「うーん、名前は聞いたことあるけど、あんまり詳しくないや」

本当は、顔も見たことなければ、名前だって一文字も聞き覚えが無い。

蚊帳の外にいることがばれたくなくて、劣等感を隠すようにニコニコしながら嘘を吐く。そんな自分が恥ずかしい。

私が奮発して買ったイルビゾンテのバッグも、彼女たちがさりげなく持っているセリーヌやルイヴィトンの前では霞んで見える。

ブランド品は目に見えて値段が分かるゆえ、勝手に自尊心をえぐられる。迷惑な話だ。

初めて彼女たちの前で使ったので、どこかで期待してしまっていた「可愛い」の言葉は貰えず、代わりにもう一人が持っていたセリーヌの新作財布の話で盛り上がった。

彼女たちの美意識は化粧品や服装のような後付けのものだけじゃなくて、きちんと身体そのものにも表れている。

例えば、私たちが温泉旅行に行くとき、私はお風呂でも劣等感を感じる。

彼女たちはいつ会っても完璧なプロポーションだ。しばらく誰にも見られていないことをいいことに、少しぽよんとしたお腹を必死で隠している私とは違い、のびのびと温泉を楽しんでいる彼女たちを羨む。

そして必ず、「次に会うときまでには痩せよう」と決意をする。

飽きるほどしている決意

気になるグルメに使っていたお金は化粧品やアクセサリーに使って、痩せた暁には、2人みたいにハイブランドを買って着こなそう。

そのために、お笑いだけじゃなくて美容系ユーチューバーの動画も見よう。

次会うまでに3か月はあるから、私は変われるはず。

そう、“毎回”思っている。

たった2日で爆上がりした美意識は1週間ほどで完全に消え失せ、切らしていた化粧水をドラッグストアで買い足した帰り道にコンビニスイーツを買って帰った。

インスタグラマーは何人かフォローするだけしたけれど、2週間も経てば興味がなくなった。

そうやって結局、古着を着て、お笑い動画や好きなアーティストの展覧会に余暇を使って、週末には2時間くらいかけて晩御飯を作って少しお酒を飲んで、自分の好きなもので埋め尽くす生活に戻る。

「それでいいじゃん。それがいちばん自分らしくていい」

そう、自分に言い聞かせる。

…けれどやっぱり、彼女たちと会う前にだけは、急いで美意識を身につける。

そんな取ってつけたような美意識ではボロが出てしまって当たり前なはずなのに、案の定話についていけない自分がいつも嫌いになる。

自分が好きなことをする自分を突き詰めるか、流行をキャッチして輝く女性か、どちらかに振り切る勇気のないまま、毎回それっぽく振る舞う自分に呆れる。

きっとそうやって中途半端なままだから、彼女たちへの劣等感が付きまとうのだろう。

自分自身が好きな自分で居られれば、話がついていけないだけでこんなに落ち込むことなどない。

いつまでも中途半端な自分は、きっとお金も時間も無駄にしている。

次に会うのは3か月後。

私は何か変われるのだろうか。今回も同じことを自分に問いかける。

分からないけれど、まだ今はこれを書きながら私は、美容系ユーチューバーの動画を見漁っている。


文/チナミノナカミ

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