「かくれあざと女」の闇。私が恋愛出来ない原因は、親友でした
「この子化粧上手いんですよ!」の裏の意味とは?
すると、男子の中の1人が
「ゆりちゃんってさ、女優の誰かに似てない?」
と口を開いた。
「えー??誰?」と満更でも無い顔のゆり。
「思い出せないんだけど、でも完全に女優顔だよね」
「嬉しいんだけど〜!でも、化粧が薄いからじゃない?」
突然の化粧薄い宣言に男性陣は驚いた様子だった。
「え!化粧してないの?」
「うん!いつもまつげと〜リップだけ」
そう言ってゆりは照れ笑いをした。
ーたしかにいつも薄化粧なゆりだけど、こないだ私がファンデーション代わりにコンシーラー使ってるって言ったら私もって言ってたのに、コンシーラーは言わないんだ。眉毛も書いてるし…ー
梨花はまた暗い思いが込み上げてきた。
「まつげ??まつげなんかどうでもよくない?」と男子の1人が聞くと、
ゆりはほっぺをぷくっとふくらませながら、
「まつげが1番大切なんだよ〜!!くるんってなってるかなってないか全然違うんだから!」と手をパタパタさせた。
それを見た男子達は、
「なんか毎日頑張ってまつげあげてるゆりちゃん想像するとかわいいわ(笑)」と鼻の下を伸ばした。
ゆりは会話の主役になるのが上手だ。
梨花はそんな男子の前だとみんなに好かれるような100点の答えを出すゆりが嫌いだった。
ー男子の前のゆりが嫌いなのは、ゆりが悪いんじゃなくてただの私の嫉妬なのかな…ー
梨花は自分にできないことができるゆりに、何もしないで文句を言っている自分が辛くなった。
「でも、梨花はメイクすごい上手なんですよ!すごいいつも目とかキラキラで…!」
「たしかに〜梨花ちゃんはバッチリメイクだよね〜」
ー薄化粧のゆりの後にメイクが上手いって言われたら、私がすっぴんと全然違うみたいじゃん…ー
梨花はみんなに顔を見られていたたまれなくなった。
梨花はいつも、ゆりが男子の前で"ウケ"そうな答えを出すところを見て、嫌な気持ちになっていた。
しかし、それはただの嫉妬なのでは無いかとも思い、自分を責めることがよくあった。
ただ、どうしても梨花を下げて自分を上げるような発言をしているのが許せなかったのだ。
以前も、同じような食事会で好きなアーティストの話になったとき、梨花はゆりと共通で好きな男性アイドルの名前を出したことあった。
するとゆりは梨花の推しの写真を、「この子面食いなんですよ〜」と言ってみんなに見せた。
「じゃあゆりちゃんは誰が好きなの?」と聞かれると、
「私は、イケメンとはあんまりよくわからないから、歌が上手いこの人かな〜」とふにゃっと笑って言っていた。
こんなことが他にもしばしばあり、どんな食事会に行ってもモテるのはゆりで、私は見向きもされなかった。
ゆりは人を持ち上げているようで落とし、それで自分に注目を向けのが上手だった。
ー2人でいる時は気づかなかったけど私のこと褒めるフリをしていつも下に見てたのかな…ー
梨花はゆりの"かくれあざとい"行動を見るたびにゆりに対しての憎悪が大きくなっていっていた。
ー"あざとい"女子は嫌われるとよく言うけど、こんなに上手く隠れて"あざとい"ゆりはどうしてみんなに好かれてるの…?ー
その後も梨花はゆりの自慢に使われる道具となって、ゆり中心の会話が進んでいった。
食事会は終わり、現地で解散となり、インスタを交換して帰ることになった。
梨花はゆりと伊吹だけはこっそりLINEを交換しているところを目撃してしまった。
伊吹の顔も他の男子と同じようにゆりにデレデレな様子だった。
ー結局今日も、上手くできなかったなあ…ー
そんなことを考えながら駅まで1人トボトボと歩いていると、梨花は後ろについて来ている足音を感じた。
あたりを見渡すと、気づけば今梨花がいるところは明かりの少ない路地だった。
梨花は振り切ろうと後ろをチラチラ確認しながら走り出した。
すると、「あー!!ちょっと待って関山さん!」という大きい声が後ろから聞こえる。
びっくりして後ろを振り返ると、
そこにいたのは、さっきの食事会にいた男の子の1人である。
4人の男の中でも特に静かな男の子で、梨花は名前が出てこなかった。
「えっと…」
「あー、僕さっき一緒だった、近藤知風(こんどう・ちかぜ)」
「あ!近藤くん!ごめん、不審者かと思って」
「そうだよね!ごめん!偶然同じ方向で、一緒に帰るっていうのもなんか狙ってる人みたいになりそうだったし、追い越すにも追い越せなくてつけてるみたいになっちゃって…」
「そうなんだ…フフッ」
梨花はなんでも素直に口に出しちゃう自分の正反対な近藤が羨ましくてふと笑ってしまった。
「ごめん!関山さん急に走り出すから、怖がらせちゃってたら申し訳ないと思って。
…よかったら一緒に帰りますか…?」
「あ、はい!オネガイシマス…」
二つ返事で一緒に帰ることになったが、梨花にとって数少ない男性との2人きりで内心ドキドキだった。
それから2人で暗い道を歩いっていったが、不思議と近藤とは会話が尽きなくて、駅の明かりが近づいてくるとお互い静かに歩く足を遅くしていった。
「そういえば、関山さんなんか浮かない顔してたけど、なんかあったの?」
ゆりが隣にいると自分のことなんか見ている人はいないと思っていた梨花は、自分のことを見ていた近藤に驚いた。
「え!あ、ああ…ちょっと自分に自信無くして…アハハ…。私友達少ないし、盛り上げたりできないし…」
「……アハハ!!」知風の笑い声が暗い道に響く。
梨花は笑う知風の横顔を見て、笑うと目がなくなるのが可愛いなとふと思った。
「なんで笑うの?」
「いや、、アハハ、、なんでもない。ただ、おかしいなって」
「…なにが?」
「関山さん、自分に自信ないとおかしいよ。店員さんにちゃんとご馳走様って言うところとか、料理運んできたら毎回会釈するところとか中身完璧なのに、化粧とか見た目の努力もしてて。すごい魅力的なのに自分に自信が無いって、逆に奇跡だよ」
梨花は時が止まったように感じた。
大学に入ってゆりと出会ってから、遠回しに悪口言われているような気分になったり、ゆりが私を使って自分をよく見せているのを疑ったりすることがよくあり、
その度に自分の性格が悪いのかと、自分で自分を認められなくなっていた梨花だから、
初めて自分を認めてくれた人に出会えたと思ったのだ。
「それに関山さん、誰かと比べて目立とうとする人より自分を磨いてる人の方がかっこいいよ」
「…え?」
梨花は近藤がゆりのことを言っているとは限らないとわかっていたが、心の裏を読んでいるようなその一言が脳裏に焼きついて離れなかった。
ー誰かと比べて自分を中心にするゆりのことをなんて考えずに、私は私の努力をしていけばいいんだー
梨花は心にあったモヤが少し晴れたような気がした。
1ヶ月後、
今日もいつも通り家を出る2時間前に起きた梨花は鏡に向かっていた。
ゆっくり時間をかけてスキンケアをし、新作のコスメを使ってメイクをする梨花。
その梨花のスマホに一件の通知がきた。
近藤知風 『今日、楽しみだね』
文/しじみの苦いとこ
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