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「恋愛対象は女の子」そんなに変なことですか?とある女子大生の物語<後編>

「恋愛対象は女の子」そんなに変なことですか?とある女子大生の物語<後編>
リク先輩とのデートでミカに目をつけられたリン。しかし、ミカの本当の姿を見たことでミカに対し特別な感情を抱く。リンはミカに自分の秘密を話そうと決意。しかし、決意を決めた矢先にリンの秘密がばれてしまった!? 人はなぜ人を好きになるのか。女性が女性を好きになることはいけないことなのか。

前編はこちらから

秘密が暴露された日

数日後、私はアヤとカオルと学内を歩いていると、外のテーブルで男性とランチをしているミカを見つけた。

「アヤ、ちょっとミカに用事があるんだけど話してきてもいい?」

私はミカの本当はただの一途な女の子という一面を知ってからは、ミカに対して怖いという気持ちはなくなっていた。

近くに行くと、ミカとご飯を食べていたのはリク先輩だった。

私はリク先輩とのデート後、自分の気持ちを伝えていない。

行こうか戻ろうか迷っていた時、ミカが私たちに気づいた。

するとリク先輩も反応し、先輩と目が合った。

私は少し気まずかったが、何もなかったかのように笑顔で私を見てくれているリク先輩を見て少し安心し、止まっていた足をまた動かした。

「これ。ミカのじゃない?」

「あ、そう。ありがと」

ミカは相変わらずそっけない態度をしていた。

「じゃあ私行くね」

「ちょっとまって」

去ろうとした私をリク先輩が呼び止めた。

「ねえリンちゃん。この前ミカと二人で話してたよね。そのあと、そこのカオルちゃん? と話してたこと、偶然聞いちゃったんだ」

リク先輩は、いつもとは違う、不気味な笑顔を浮かべていた。

背筋が凍るような感覚がした。

「リンちゃんって、レズだったんだね」

そこにいた周りの人たちが一斉に私の方を見た。

こちらのほうを見ながらコソコソ話をしていた。

思い出したくない記憶。

ああ、あのときと同じだ。

みんなの軽蔑の目。

まるで私がこの世の生き物じゃないみたい。

私は頭が真っ白になってそこから立ち去ることもできず、ただそこに立っていることしかできなかった。

「いやー全然そんなこと聞いてなかったからさ、びっくりしたよ。最初から言ってくれれば二人でなんて遊びに行ってなかったし。俺を騙してたってことだよね?」

そう笑いながら言うリク先輩の目は、全く笑っていなかった。だんだんとリク先輩の顔を見ることができなくなり下を向くことしかできなかった。

「あーマジできもいわ。無駄な時間過ごした」

そこにはあの優しい先輩はいなかった。

『きもい』

その言葉が昔の自分の過去の記憶と重なり、永遠とその言葉がループした。

私は、その場で座り込んで、耳をふさいだ。

耳をふさいでもその言葉が聞こえてくる。

『きもい、きもい、きもい』

「リン」

優しい声でカオルが私の名前を呼んで私の肩に手を添えた。

しかし、私はその手を振り払った。

「触らないで! わかんないでしょ私の気持ちなんて!」

もうこれで終わり。

また中学のときと同じだ。

大切だった人を失った、消したい過去

中学時代。

私はとにかく友達が大好きだった。

何をするにも友達がいればそれで良くて、彼氏もほしいとは思ってなかったけど、友達の話に合わせて「彼氏ほしいなー」とか言ってた。

私は今まで恋というものをしたことがなかった。

みんなに好きな人ができたり、彼氏ができたりしているのを見て『きっと私はまだ好きになれる人と出会えてないだけなんだな』ってずっと思っていた。

中学2年生の時、ついに私は恋をすることができた。

だけど、自分の思っていたものとは少し違った。

その子は私の親友であり、女だった。

思いに気が付いたのは、二人で下校をしている時。

「あ! みて!」

親友が指をさした先にはきれいな夕焼けがあった。

私はその夕焼けを見ていた親友の顔を見たとき、胸がきゅーっと締め付けられるような気持ちになった。

私は彼女のことを、ひそかに思い続けた。

彼女の笑顔を見るだけで、私に少し触れるだけで、胸がときめいた。

ああ、これが恋なんだ。

気持ちを抑えきれなくなった私は、ついにある日の放課後、伝えることにした。

別に付き合いたいなんて思ってない。ただこの気持ちを伝えたかった。

大切で、大好きな、私の親友。

きっと私の気持ちを分かってくれると思った。

「好き。友達としてとかじゃなくて。本当に好きなの」

親友は驚いた顔をしていた。

「それって、女の子が好きってこと?」

「うん、そうみたい……だけどただ気持ち伝えたかっただけだから。それだけ! じゃあ帰るね!」

私は急に恥ずかしくなって、一人で鞄を持って教室を出た。

次の日から、私の学校生活は一変した。

「おーい! レズ!」

教室に入るなり男子からの罵声。そしてみんなからの冷たい目。

「ねえ、どういう……」

友達に声をかけようとしたが、無視された。

そこには昨日思いを告げた親友もいた。

「きっと私たちのこともそういう目で見てきたってことだよね。きもくない?(笑)」

「無理なんだけど(笑)」

その日から、毎日のように『きもい』と言われた。

それから間もなくして、誰も知らない遠い場所の高校に入学をした。

それでも、自分の秘密がばれるのではないかと思い、毎日怯えながら生活していた。

私はもう恋をしない。

この秘密を隠し通そうと決めていた。

カオルの告白「かわいくなるのも好きになるのも性別なんて関係ない」

中学の時と同じ。

また友達もいなくなって、みんなから冷たい目で見られるんだ。

『バンッ!!』

私は何かを叩く音でとっさに顔を上にあげた。

前にはカオルの後ろ姿とその奥に頬を痛そうに抑えるリク先輩の姿が見えた。

「痛すぎんだろ! お前ほんとに女かよ!」

「男だよ」

「え?」

「なになに、驚きすぎじゃない?もちろん気持ちは女の子だけどね♡」

カオルが、男……?

言われてみれば、背も高いし、声も低めだけど。

「私、ずっと女の子になりたかった。だけど周りの目が怖くて、普通の男の子として過ごしてきたの。だけど、やっぱり自分に正直に生きたいと思って、大学入る前に今しかないと思った。

入学前にメイクもファッションも勉強して、短かった髪も何とかショートまで伸ばした。初めてだったからうまくいかないことも多かったけど、生きていた中で一番楽しかった。

それで入学したらいろんな男の人に声かけられて『かわいいね』って言われてめちゃくちゃうれしかった」

「お前が普通の女じゃないって分かってたらみんな言うはずねえだろ!」

リク先輩が逆ギレのように口を出してきた。

でもカオルはそんなリク先輩に対し、怒る様子もなく穏やかな表情で答えた。

「普通の女の子って、どんな女の子なんですかね。

背が高い子、低い子。髪が長い子、短い子。一重の子、二重の子。性格もみんな違う。

普通の女の子なんて誰一人としていないんです。

私はだた男の体をした女の子であって、リンは女の子が好きな女の子ってだけ。

ただ、それも私たちの一つの個性なんです。

だからかわいくなることに性別も関係ないし、誰だってかわいくなりたいって思ってもいいんです。

人を好きになるのに理由がないのと同じで、かわいくなりたいって思うことは自由なんです」

カオルの言葉にハッとした。

私は、ずっと普通の女の子になりたいと思ってた。

女の子が好きなことはおかしいことなんだと思ってた。

だけど、人と違うなんてことはみんな同じ。

みんなどこかしら違う部分があって私はそれがみんなよりも珍しかっただけだった。

「もういい、行くぞ」

恥ずかしくなったのか、リク先輩はミカを連れて出ていこうとした。

ミカは先輩とともに立ち去ろうとした。

「あ! 先輩!」

恋はいつだって自由だ

「あ! 先輩!」

ミカが大きな声でリク先輩を呼び、ミカのほうを向いたとき、ミカが思いっきりリク先輩の頬をビンタした。

「え……」

私は唖然とした。

カオルは大笑いしている。

私はもう頭がついていけなかったが、リク先輩が今にも泣きそうなことだけ理解できた。

「これ、この子の分。今叩ける状態じゃなさそうだから私がやっといた」

ミカは私のほうを指さし、リク先輩を睨みつけながら話し続けた。

「人を好きになることがきもいって何?そんなこと言われる筋合いないし、あんたのその考えのほうがよっぽどきもいわ。もう二度と私たちに関わらないで」

リク先輩は何か小さな声で文句を言いながら走って行った。

「何にもしなくても好かれてるあなたに嫉妬してた。何にも悪くないのに八つ当たりしてしまって、ほんとにごめんなさい」

ミカは頭を下げてくれた。

「私、嬉しかった。自分のことを認めてくれて。だから、ありがとう」

私の勘は外れていなかった。この子なら私のことわかってくれるって。

自分の秘密を自分の口から伝えることができなかったけど、伝わって良かった。

「大事なのは勇気だよ。もちろん私たちのような人間が認められないこともある。だけど世界にはたくさん人がいるんだからきっと誰かは私たちを認めてくれる人がいる」

カオルはそうやって私にやさしく声をかけてくれた。

「まだ話すべき相手がいるでしょ?」

カオルは応援してくれているかのような温かい目で私のを見ていた。

アヤだ。

アヤは私の後ろで下を向いて立っている。

「ごめん、アヤ。黙ってて。ほんとのこと言ったらアヤがいなくなるんじゃないかって怖かった」

「なんで言ってくれなかったの……」

アヤはそういって顔をあげた。

「私、百合好きなの!」

私の目を見るアヤの目はなぜか輝いてた。

ゆ、百合好き…?

「いわゆるガールズラブが好きな人のことだよ! こんな身近にいたなんて知らなかった! もっと早くいってよー!」

「え、あ……なんかごめん」

謎に興奮しているアヤに、戸惑う私。そして、カオルとミカはくすくすと笑っていた。

「ほら、案外勇気を出していってみるもんでしょ?」

そうカオルは笑いながら言った。

私は大学生活のほとんどを3人と共に過ごした。

カオル、ミカ、アヤは私のかけがえのない友達だった。

あの事件の後、後ろ指を刺されることや、私やカオルのほうをみてこそこそ話している声も聞こえたが、気にすることはなかった。

だって、私には私を認めてくれる人がいるから。

素でいられること、私のことを認めてくれる人がいることがこんなにも幸せなことなんて知らなかった。

人はなぜ人を好きになるのか。

人を好きになることに理由なんてない。

だから、誰に恋をするのかも自由だ。

あなたのことをおかしいと言い笑われることや否定されることもあるかもしれない。

だけど、自分だけは自分を信じてあげよう。

そうすればきっと誰かは自分を認めてくれる人が現れる。

大丈夫。あなたはあなたらしく生きればいい。

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