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実際にあったマッチングアプリの怖い話。ラブホテルから間一髪で脱出に成功した賢い方法とは

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実際にあったマッチングアプリの怖い話。ラブホテルから間一髪で脱出に成功した賢い方法とは
人とのコミュニケーションが少ないと、誰でも寂しくなってしまう。そんな、なんとなく気持ちがふさぎ込んだ時に便利なのが「マッチングアプリ」だ。知っている人と繋がるSNSよりも、新しい世界を開きやすいが、そこには落とし穴もあって……。マッチングアプリで危ない目にあった、一人の女子大生の物語。
目次
  1. 気の合う男性を見つけては、スマホばかりを気にしてた
  2. 紳士だと思っていた、彼の本性とは
  3. あぶなかった……女は知恵で切り抜けると気づいた日
  4. 【あわせて読みたい】

気の合う男性を見つけては、スマホばかりを気にしてた

美里がスマートフォンにマッチングアプリをインストールしたのは、大学二年の夏休みのことだった。

赤いアイコンのアプリに流れてくる男性の写真とプロフィールを、美里は右に左にとスワイプする。

美里はおしゃれに気を遣うのが好きな女子大生だったから、彼女に「いいね」をつける人は3時間たらずで99人を超えた。そこから先は数えられない。

素敵だなと思う人に美里が好意のスワイプをすると、大抵はマッチした。

その中で初めて意気投合したのが、湊だ。

湊は都内の大学に通う三年生。本を読むことと映画が好きだと言っていた。美里もよく友達と映画を見に行っていたので、その話題を振ってみる。

「湊さんは、どんな映画を見るんですか?」

「僕はハリウッドのアクション映画が好きだよ。アベンジャーズとか。美里ちゃんは?」

「昔から恋愛映画が好きなんですけど、最近は深夜配信のアニメにもハマっちゃって。先週はその劇場版を見に行ってきました!」

思い返せば、悲劇はここから始まっていた。

心理学を悪用した「恋愛工学」というやつに、美里はまんまと乗せられていたのだ。

湊からのメッセージの返信は、すぐに来た。

「僕もたまにアニメ見るよ! 最近ゲームの世界に行くアニメとか多いよね。そういうののこと?」

湊は、そうやって美里との共通点を嬉しそうに語り、さらに自分のことも少し話して、彼女にもっと話させるように促した。

「私が見たのは普通の女の子がアイドルになるような話で……」

美里も一方的に聞かれているわけではないから嫌じゃなくて、つい喋ってしまう。

これは専門用語で「自己開示の返報性」という言葉で説明されることがある。相手と同じくらい自分のことを話すと、仲良くなれるのだ。

それが危険になり得ることだとは知らずに──。

たくさん話せば話すほど、距離が縮まったような気がして、美里はスマートフォンを見る回数が増えていた。

湊とのやりとりが心待ちになっていた。

紳士だと思っていた、彼の本性とは

湊から「会ってみようよ。一緒に映画に行こう」という誘いがあった。

LINEを聞かれてはいたけれど、美里は会ったこともない人に教えるのは気が引けて「もう少し仲良くなったら」とやんわり断っていた。

でも、映画を見て仲良くなれたなら──と淡い期待をして、誘いにのる。

美里は湊と5限の終わった時間に新宿で待ち合わせした。

映画は彼のおすすめだという、少年漫画原作の実写映画を選んだ。

2時間半ほどの大作映画で、終わったころには夜9時近くなっていた。

「とっても面白かったです! あの主人公の殺陣シーン!」

「僕もワクワクしちゃった。ねえ、遅くなっちゃったし、ご飯でも食べながら感想語り合いたいな」

美里はスマートフォンをチラッと見て、だいぶ遅い時間だな、と心配になった。

しかし、確かにお腹も空いていたし、感想を誰かと一緒に話すのも楽しそうだと思ったので、彼女は湊と一緒にレストランに入る。

お酒を勧められ、「一杯だけなら……」とカシスオレンジを一口。

美里の感想に湊はうなずき、とても共感していた様子だった。

それだって後から考えれば、「共感を示してくれた人に好意を抱きやすい」というものにすぎなかったと彼女は思う。

強くもないお酒を飲んで頭がふわふわとしたところで、湊はタクシーを呼んだ。

運転手がいるとはいえ、タクシーはある意味密室。

先に美里を乗せてから湊が乗り込むと、彼は目的地をはっきりと告げずに「右へ」「この2本先を左へ」と指示していった。

駅なら駅だと言えばいいのに。

そう言わない湊に少し不審な感じを覚えたものの、美里は湊が柔らかい手つきで腕に触れてきたことに気を取られて違和感を忘れてしまった。

「美里ちゃん、大丈夫? ちょっと酔ってるんじゃないかな。顔が赤いよ」

「だ、大丈夫です。あまりお酒に慣れてないので」

腕を触られたことが嫌だと思ったのが顔に出ていたのか、湊がこう言った。

「ごめんね、お酒を飲ませたのも、今触ったのも嫌だったよね」

タクシーという密室の中だ。

湊に「嫌だったでしょ」と下手に出られたら、気弱な美里は「飲まなければよかったし、触られたくない」とは言えなかった。

そう言えばよかったと後々後悔したが、その時はそう言えなかった。

「あ、いえ、大丈夫です……」

大丈夫なんて言ってしまったせいで、湊は美里の体に少しずつ触ってきた。

腕から指先へ、そしてスカートの上へ手を置いて。

だんだんハードルの高さを上げていくように、親密にならなければ触らないような場所に触ってきた。

美里はその距離の詰め方のテクニックに、拒絶のタイミングを忘れていた。

そして、湊がタクシーを「ここでいいです」と止めた時、二人は駅から離れたラブホテル街にいた。

あぶなかった……女は知恵で切り抜けると気づいた日

「えっと、今日は映画だけだって……」

美里が「さすがにちょっと」と思うと、湊は笑いながら「そうだね」と言った。

「ここから先を選ぶのは美里ちゃん自身だよ。今、時間は10時半だよね。駅まではこのホテル街と飲み屋街を歩いて10分。無理強いはしないけど、帰るなら一人で帰ればいい。僕は君を送っていかないよ」

女子大生がラブホテル街を一人で抜けるのは、けっこう勇気のいることだった。

少ない街灯の中に歩いている人たちがなんだか怖い人のように見える。

一人で帰るのは足がすくんでしまう。選択肢はあってないようなものだった。

「……わかりました、一緒にいきます」

美里は言葉少なに、湊の隣を歩いてホテルに向かうことを選んだ。

いや、選んだのではない。選ばざるを得なかったのだ。

「これは同意の上だよ。美里ちゃんが自分の意思で選んだんだ」

念押しするような湊の言葉に、美里はそうだと思い込まされていった。

「恋愛工学」を使う男性は、女性を「落とす」ことを狩りに成功したかのように思う。もしくは、格闘ゲームで勝ったかのように。

タッチパネルで部屋を選び、エレベーターに乗る間、美里は自分に「そう、自分で選んだこと。湊さんとエッチする」と言い聞かせていた。

シャワーを一緒に浴びるかという問いに、美里は恥ずかしいからと彼に先に浴びてもらうことにした。

シャワーの水の音を聞き流しながら、美里はスマートフォンをカバンの中から取り出そうとした。

なかなか見つからなくて探っていると、カバンをひっくり返してしまう。

トートバッグから散乱した荷物の中に、今日受けた講義のルーズリーフが入っていて、美里の目に飛び込んできた。

3限に受けた講義で、「アサーティブコミュニケーション」というものを解説された時のノートだ。

「『本当に相手を思いやって、愛情あるコミュニケーションをしようとするならば、相手を自分の思い通りにコントロールしようとする発言にはならない』……相手を、コントロール?」

美里は今までのことを思い出して、湊が自分をコントロールしようとしていたのではないかと気づいた。

選ばざるを得ないように差し向けたり、嫌だと言わせないように「美里をうまく操縦しようとしていた」と表現するのが良いだろう。

血の気が引いたような気がして、美里はシャワールームに近づき湊に話しかけた。

「ねえ、もう出ちゃいますか?」

「そのつもりだけど……」

シャワーを止めて答えた湊に、美里は生唾をごくりと飲んで勇気を出した。

「あのね、一緒に入りたくなっちゃったから、そのままお風呂で待っててもらっててもいいですか……? すぐに行きます」

美里の提案に、湊は声を弾ませて嬉しそうに「わかった」と返事した。

彼の言葉を聞くと、美里は戻ってベッドの枕元に向かう。

美里は自らの服を脱ぐ──のではなく、枕元のパネルについていた電話の受話器を取って、フロントに電話をかけた。

「もしもし。私、来たくないのに連れ込まれました」

手は震えていた。

それでも、相手が自分を追い詰めて搾取しようというのなら、黙っているわけにはいかない。

火の粉が飛んでくるのなら、自分を守るために意思をはっきりと示さなければいけない。美里は酔いの覚めた頭でそう思った。

そして、カバンの中身を詰めて確認すると、お風呂場でもう一度湊に声をかけた。

「髪の毛結んでるのがうまく取れなくって、ちょっと時間かかってるの。ごめんなさい、もうちょっと待っててほしいです」

そう言うと、そのままホテルの部屋を後にした。

フロントで呼んでもらったタクシーに駅まで運んでもらいながら、美里は危なかったと息を吐いた。

ホテル街の薄暗いのに妙な明るさが、遠ざかっていく。

マッチングアプリには、人をモノだと思っている人間もいるのだ。

そう考えながら、終電間際でも明るい駅前の光を見る目が、涙で滲んだ。

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